<オルトボックス・デジタルビーコン>
■《速報》デジタル雪崩ビーコン オルトボックスm1(ORTOVOX m1)使用テスト
1998年12月10日
北海道雪崩事故防止研究会
阿部幹雄
●テスト機種:
オルトボックスm1(ORTOVOX m1)
トラッカーDTS 〈98/99改良型〉(TRACKER DTS)
○発信用雪崩ビーコン:
オルトボックスF1plus (ORTOVOX F1plus)
オルトボックスF1focus (ORTOVOX F1focus)
アルペンビーコン1500(AB1500)
サバイバルオンスノーF1-ND(SOS F1-ND)
ピープス457(PiEPS 457)
●テスト場所:札幌市中央区旭山記念公園
●気象条件: 天候 晴のち曇り 気温−0.2℃ 積雪35cm
●テスト者:阿部幹雄(ASSH 北海道雪崩事故防止研究会)
●テクニカルデータ
◆オルトボックスm1(ORTOVOX m1)《添付されている説明書のデータ》
外形寸法:150×64×25mm(※1)
重 量:230g
電 池:単3×2
送信時間:250−300時間
周波数 :457kHz
電波範囲:70m(※2)
耐久温度:−20〜+40℃
※1:包装箱の記載では外形寸法が150×64×20mm。
実測では150×64×25mm
※2:包装箱の記載では電波範囲が80m。
◆トラッカーDTS 〈98/99改良型〉(TRACKER DTS)
外形寸法:記載無し
重 量:291g
電 池:単3×3
送信時間:250−300時間
周波数 :457kHz
電波範囲:50m
耐久温度:(電池残量が66.7%のとき)
送信モード;−10〜+40℃
捜索モード;−20〜+40℃
●m1の形状:
F1プラス、フォーカスをより細長くして長方形の形状に近くなった。湾曲はさ
らに強まり体へのフィット感は向上した。
●m1の携帯方法:
着脱式の腰ベルトとこれに接続できるショルダーストラップの二つを用いて肩
掛けできる。F1プラス、フォーカスの三点式ショルダーストラップよりはるか
に簡単で楽に携帯できるようになった。捜索時にはより遠くまで手を伸ばせて
保持感が向上した。
●m1の電源ON/OFF
腰ベルト先端の留め具を差し込むとON/OFFスイッチが動き電源が入る。
ON/OFFスイッチを上に引くと留め具がはずれ電源が切れる。
いずれの操作も手袋をしたままの状態でたやすく行える。これもF1プラス、フ
ォーカスより向上している。
●m1の受信モード切替
腰ベルトの一方の先端にある留め具が電源ON/OFFの作動に関わり、残る一方
の先端にある留め具が受信モード切替に関わる。クイックロックの両端を押し
込めば簡単に留め具がはずれ受信モードに切り替わる。捜索中にクイックロッ
クの差込口にある緊急スイッチを押しこむと送信モードへ切り替わる。
この操作は瞬間的に行える。合理的で独創的、優れた方式だ。
●m1の受信状態表示:
16×48mmの液晶デジタル表示部分には電池容量、ボリューム切り替え記号、
概略捜索記号(最初の信号を捉えろの指示を意味する)、誘導線捜索記号
(誘導 線からはずれた場合に表示される)、距離表示(メートル)捜索方向、
受信レベル(捜索方向矢印内にバーコードで表示)、ピンポイント捜索記号が
表示される。しかもアナログビーコンの機能を継承して外部スピーカー、イヤ
ホン、発光ダイオードランプ(1個)がちゃんとついている。アナログビーコ
ンに慣れ親しんだ人でも戸惑うことはなく、もしデジタル表示が機能しなかっ
た場合にも問題なく捜索が行える。緊急時のバックアップシステムも万全だ。
望みうる最大限の情報を捜索者に与える最良のビーコンである。
●m1の作動テスト:
電源が入ると液晶表示部に全ての記号が表示され10秒後に消える。全記号が
表示されたら正常に作動している。送信状態は左右二つの制御ランプ点灯で示
す。
●受信能力
オルトボックスm1(ORTOVOX m1)
トラッカーDTS 〈98/99改良型〉(TRACKER DTS)
◎オルトボックスF1 focusを発信ビーコンとして受信ビーコンと平行な位置関
係に雪上に置いた。
《オルトボックスm1》 《トラッカーDTS 〈98/99改良型〉》
【距 離】
【70m】 感知せず 感知せず
【56m】 受信音をかすかに捉える 感知せず
【50m】 受信音を捉える 感知せず
まれに概略捜索記号が現れる
【40m】 受信音を捉える 感知せず
捜索方向記号が現れる
〈誘導線に従って正しい方向進んでいる〉
【35m】 受信音を捉える 感知せず
距離表示は45m
捜索方向受信レベルのバーコード
1個が表示される
【30m】 受信音を捉える 感知あり
距離表示37〜40m 距離表示42〜45m
受信レベルバーコード2〜3個 表示は不安定
【28m】 常時、距離を表示
信号音あり
距離表示40〜42m
【24m】 受信音、LED点灯
距離表示(記録忘れ)
【20m】 受信音、LED点灯 信号音あり
距離表示19m 距離表示29m
【13m】 受信音、LED点灯
ボリューム下げの表示現れる
【 2m】 受信音、LED点灯 信号音早く、大きくなる
ピンポイント捜索表示現れる
★オルトボックスm1の捜索可能範囲はおよそ50mである。
★トラッカーDTSの捜索可能範囲はおよそ30mである。
★距離表示は誘導線の距離なので発信ビーコンと受信ビーコンの距離を示すもの
ではない。
参考にできると情報と解釈すればよい。m1の距離表示はDTSよりはるかに正確
である。
m1の距離表示の最大は45m。
★誘導線をはずれるとm1なら捜索方向記号、LED、音などで修正でき、DTSなら方
向を示すLED、距離表示で修正できる。
★★デジタルビーコンはアナログビーコンよりはるかに早く、簡単に発信ビーコ
ンに接近できる。
★★★デジタルビーコンDTSのm1への干渉
m1がDTSの影響を受け受信状態が安定しない。受信状態のDTSがm1の近くにあっ
た場合、受信音を捉え、距離表示が不正確になったり変化したり、捜索方向記
号が表示されたりして受信状態が不安定になる現象が認められた。10m離して
も影響を受け、DTSの電源を切るとm1は安定した受信状態になった。逆にm1が
DTSに影響を与える現象はなかった。
●2個のビーコンを捜索
オルトボックスF1focusと10m離れた位置に、もう1個の発信ビーコンを受信
ビーコンと平行な位置関係になるよう雪上に置いた。2個目のビーコンは次の
機種である。
オルトボックスF1plus (ORTOVOX F1focus)
アルペンビーコン1500(AB1500)
サバイバルオンスノーF1-ND(SOS F1-ND)
ピープス457(PiEPS 457)
★m1、DTSともに最初に捉えた発信ビーコンの誘導線に従って接近していく。
★1個目の発信ビーコンの位置を確定し、このビーコンの誘導線の影響を受けな
い場所まで離れて、残るビーコンの誘導線を捉えれば、2個目のビーコンへ接
近できる。無視されるビーコンはなかった。
★★複数のビーコンを捜索する場合、パルスの遅いビーコン(オルトボックス各
機種)を旧型DTSが無視することが報告されている。今回の使用テストでは不十
分で、さらに綿密なテストを行う必要がある。なお、m1のパルスはオルトボッ
クスのアナログビーコンより早くなっていた。
●発信ビーコンを雪中に埋没した場合の受信能力
◎オルトボックスF1focusを30cmの深さに埋めm1、DTSで捜索。
捜索開始距離は30m。
★★★アナログビーコンよりはるかに早く、簡単に発見できた。
【今後のテスト】
(1)深い雪中に埋めたビーコンの捜索
(2)複数のビーコン捜索
(3)低温実験室での性能テスト
☆とくに低温下での液晶表示の性能。−20℃の条件でテストしたい。
(4)多人数での性能評価
(5)デジタルビーコンのデジタルビーコンへの電波干渉
☆受信状態のm1は他のm1へ電波干渉をするのか。
☆12月下旬に北海道雪崩事故防止研究会会員たちと手稲パラダイスヒュッテ
周辺で新たな性能テストを実施予定。現在手稲山の積雪は2m。
【総 評】《今後、さらに詳しいテストでの評価を必要とするとの条件付き》
(1)オルトボックスm1
新発売されたデジタルビーコン、オルトボックスm1はアナログビーコンの受信
機能を継承しつつデジタル化され、「望みうる最大限の情報を捜索者に与える世
界最良のビーコンである。」。捜索範囲は公表データより狭い50mであるが、
操作性の簡便さ、確実性も優れ、セルフレスキューを実践するためのビーコンと
して十分な性能といえる。設計思考の独創性や緊急時におけるバックアップシス
テムへの配慮も行き届いており、さすがオルトボックスと頷けた。これから世界
のビーコンはデジタル化へ進むのは間違いなく、オルトボックスm1が指標となる
に違いない。
(2)トラッカーDTS
捜索可能範囲が実際には30mしかない。たしかに30m以内にある発信ビー
コンの捜索はアナログビーコンより早くて簡単。だが、操作が複雑であったり確
実性がないなど、DTSに不慣れな者、緊急時の捜索者の精神状態を考慮すると信
頼感が劣る。設計開発者が雪崩ビーコンについて熟知していないのではないかと
の印象を受ける。
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E-mail:nadare@hey.org