<ビーコンの互換性>


デジタルビーコンとアナログビーコンの互換性および複数の捜索

                                1998.7.28
            菊浦 史  出川 あずさ  椎名 哲郎  中山 建生 

 デジタルビーコン・トラッカーの出現は既存のアナログビーコンに大きな衝撃を与
えただけでなく、今後のビーコンの将来性を示すものと考えている。 このたび、ト
ラッカー、アルバ9000のデジタルビーコンの持つ機能を確かめ、日本で手に入るアナ
ログビーコンとの互換性を確認する目的でテストをした。 さて、テストをしたいと
決断したもうひとつの働き掛けは、デジタルビーコン・トラッカーの機能テストをし
たカナダの報告書を入手したことである。 



 この報告書の書き手はカナダ運輸省の雪崩専門家によるもので、電波の最長到達距
離、つまり、それぞれの受信感度の比較と複数ビーコンが埋まっている場合に、それ
らすべてにトラッカーの受信反応があるのかどうかをテストしている。 この報告の
要旨は、トラッカー同士では速やかな発見ができるが、他の機種が混ざりあった状態
では互換性に問題があるとしている。 

 それでは、テストの結果にしたがって報告をする。テスト条件は新宿御苑、平坦
地、気温32度、ビーコンの位置は最も強い電波を受信する正対する位置とした。後に
縦横の関係にした位置でテストをしたが、ことわりのないかぎり正対の位置である。
 アナログビーコン同士の相性の問題も含めて互換性のテストをした。結論は、アナ
ログビーコンの受信感度は多少の違いはあるものの、概ね50メートルの距離で相手方
のビーコンの電波を捉えている。これに対してトラッカー、アルバ9000のいずれも、
35メートル以内に接近しないと距離の表示がでないことが分かった。(一覧表のうち
トラッカー参照) 受信感度が低いことで実際的な問題を生ずるとすれば、平坦な広
がりをもった雪崩斜面で埋没地点の推定ができない場合に受信感度の低い分だけ回数
を重ねて捜索をすることになる。発見に要する時間が問題であるのに、時間がかかる
ということでは目的を果たさない恐れがある。 
 デジタルビーコンでの捜索がアナログビーコン1台であるかぎり、一覧表のとおり
受信距離の違いはあっても問題はない。距離の表示の正確さは5メートル以内に接近
してからであり、実際にはピンポイントまでは当てにならないと判定した。 今後、
デジタルビーコンの解析能力の向上は求められる。 



 感度の問題は低温下の電池性能の劣化とも関係があり、実際の現場ではさらに接近
しないと距離の表示がされないものと見ている。 トラッカー、アルバ9000のいずれ
も受信感度を引き上げること、さらに条件の悪い山岳地の使用にも耐えるリチュウム
電池の使用に替えることを望んでいる。 さてデジタルビーコンでの複数捜索が問題
となった。 受信した電波を解析して距離の表示をするため、同時にあるいは若干ず
れた電波を受信した場合に、その場で慎重に各ビーコンの電波を割り出さなくてはな
らない。緊張した雪崩事故現場で冷静に操作できるためには、訓練と機能についての
理解を必要とする。 カナダの報告できわめて特定が困難とされたのは、1mから
3mに接近したときとしている。今回は雪のなかに埋めてのテストをしていないため
これを確かめることはできなかった。が、ランダムに3台を置いてのテスト結果は、
同時に電波を受けたとき、数値の表示が消えている。つまり、解析不能と考えた。近
距離に接近して距離の表示が消えるときの対応の仕方を教える必要がある。 トラッ
カーのSPモードは、指向性を25度の範囲に狭めるため、複数ビーコンの範囲外の
電波をカットする機能を持っている。これも使い方に慣れないと信号を見失い、慌て
てボタンを押しなおしたりすると別の機能に移ってしまうから、何回も練習すること
でしか解決しない。このことは初めてとか数回とかの人には扱いが難しいことを意味
する。
 アルバ9000は最も強い信号をキャッチして、他は自動的にカットする機能を持って
いるから、操作としては混乱は起きない。ここでの互換性の問題とは、オルトボック
スに顕著に示された。3台を縦横の位置にずらして平行に並べてのテストでは、最も
近距離にあったオルトボックスの電波を拾わずにAB1500とSOSの電波を拾い、
オルトボックスを無視した点であった。
 カナダの報告でもこの点に関する指摘があり、パルスの早いものを感知して拾い、
遅いものは拾いにくいとした点である。
トラッカーの信号間隔が0.8秒、オ ルトボックスは1.2秒と報告されて、このパ ルス
の違いが影響を与えるとある。 ピンポイント近くに埋まった複数のビーコンの捜索
は現在のデジタルビーコンの能力を越えているため、著しく困難である。 カナダの
報告にはこれを解決する方法、ビーコンを扱うことに慣れた専門家の工夫が載ってい
るが、慣れない者には難しいため、割り引いて考えなくてはならない。 

 今後、ビーコンを作っている各社がデジタルビーコンを売り出すと予告している。
 来年の冬には総合的な点検をしてみるつもりである。 デジタルビーコンは埋没が
1台であれば、あるいは接近して埋まっていないなら発見は速やかに行なえる。教え
方も「矢印の中央に気をつけてその方向に進め」と余計なことは言わないで済む。 
私たちもだれもが簡単に操作でき、埋まったものを速やかに発見できるビーコンの出
現を望んでいる。ビーコンにLEDがついて、誘導法が確立した。こんどはデジタル
となり解析する能力が加わったことで、位置の特定がさらに容易になった。 こうし
た改善と新しい考え方は、雪崩事故による事故者の発見に大きく寄与する。 テスト
に参加して試した印象を要約すると、出川あずさ氏は捜索時の取り扱いと難易度につ
いてとして、
1.トラツカーは5分で発信モードに切り替わるのは混乱を招く恐れがある。
2.ボタンを押すと捜索モードに入ったり、SPモードや音を消せるが、クリック感
  がないこと、押してほんの僅か待たなくてはいけないため、慣れないと2回押し
  てしまいがちである。捜索時に混乱を招く恐れがある。
3.方向を示すLEDが扇状に並んでいるのは非常に使い易い。
4.表示される距離は参考にならない。

 アルバ9000に関して
1.捜索モードの切り替えは簡単。
2.ビープ音で電波を捕まえてから、さらに正しい方向を示すLEDの点灯までに、
  さらに6から8mの距離を必要とするため、初期において、赤いLEDひとつを
  頼りに方向を探さなくてはならないので不安感を持つ。 しかし、10m以内に
  入ってからは、人が変わったように強力に電波を捕えている感じを捜索者に与え
  る。 

 菊浦史氏(文章が長いので要約した)は、
1.トラッカーの電池の交換にマイナスドライバー使うのは不便。
2.装着するストラップは扱いづらい。
3.スイッチを入れると、LED、発信、受信のセルフチェック機能が働き、バッテ
  リーの残量をパーセンテージで表示し、その後発信モードに切り替わる。使いや
  すい。
4.反面、捜索モードの切り替えは押す時間によって違うため、混乱させる恐れがあ
  る。
5.LEDと距離表示のディスプレーにより、基本的な操作はアナログビーコンより
  大幅に操作が簡略化された。が、距離の表示に関してまったく当てにならかっ
  た。 
6.複数捜索の場合、カナダの報告と同様に、アナログビーコンとの互換性には問題
  がある。
 次にアルバ9000の印象について
1.電池交換は非常にやりずらい。
2.装着感はストラップが肩と腰で分かりやすい。
3.スイッチはオルトボックスと同じで、操作が単純で分かりやすい。
4.発信、捜索モードの切り替え、このスイッチが貧弱で改善の余地がある。
5.受信距離はトラッカーと同じ、35mで、現実の捜索に影響を与えそうである。 

 椎名哲郎氏はデジタルビーコンの有用性について、問題点を含んでいるため、高い
とは言えないとして、上記2氏の評価を同じような印象を持ち、
1.受信距離が短い。
2.複数捜索の場合の操作性の悪さ。
3.複数捜索の場合の他のビーコンとの互換性に問題がある。
今回のテスト結果からトラッカーとオルトボックスの互換性のない点は、世界に普及
しているビーコン(オルトボックス)との互換性がないなら、これは使いものになら
ない。今後、デジタルビーコンがスタンダードになるとみて、問題点の改善を期待す
ると結んだ。 

 AB1500を開発した萩元茂治氏に、テスト結果を送り、その返事を得た。電気の専
門家としては、必要としたデータが少ないとしながら、
1.信号はアナログである。
2.表示回路のみ信号レベルを数値化している。
3.アンテは2本、クロスさせて使用。それぞれに回路を付けてバランスを取って使
  用。アナログビーコンのように振るという操作の必要がない。
4。多分、多数個のビーコンを同時に検出するためには、互換性がきかない方式とな
  るかもしれない。 

 この報告は、1998年9月20日横浜にて、第4回全国登山・スキー場雪崩安全セミ
ナーで報告したものに少し手を加えてものである。 図及び一覧表は、1998 VOL.3 
POWDERから転載した(POWDER 119頁〜123頁参照 )

                             報告者 中山 建生

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